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最終的に何に興味をもつか、自ら行動した経験に基づいて決める

筑波大学 医学医療系 研究員
研究キーワード:休眠/睡眠/体温調節/神経科学/行動生理学/冬眠/Qニューロン/Qrfp

研究者としての道を選んだ経緯を教えてください

まず「研究・研究者」という存在を初めて知ったのは高校3年生だったと思います。大学進学先をどこにするか迷っていた頃(2009年頃)、高校の近くの書店でiPS細胞の特集本(ニュートン別冊、薄オレンジ色の表紙)を偶然みつけました。生命科学の知識が極めて乏しい私にとっても大変わかりやすく魅力的で、再生医療や発生学に純粋に凄いなと感動した記憶があります。再生医学の研究が可能な大学を選び、幸運にも入学後早々に多能性幹細胞を用いた実験や実験補助など行うチャンスをいただけました。しかし紆余曲折あり、大学院では神経科学・生理学を専攻することになりましたが、この経験は非常に大きな糧となりました。

大学2-3年生の頃、悶々と自身の将来や本当の興味を模索している時、神経科学、生理学、生化学をはじめ多分野の有名な教科書を読み漁りました。どうやら自分の主観的な気分や意思決定は、脳内の分子や細胞に支配されているらしいと知りました。目に見えない小さな神経伝達物質(例:ドーパミンやセロトニン)や、一つ一つの神経細胞やグリア細胞、それらが構成する神経回路が気分や意志を決め、行動を促し、ひいては“自分”を形成しているらしい。無知な自分にとって(少し悲しくも)とにかく衝撃的で非常に興味が湧きました。また最新の論文を調べていると、神経科学界では既にオプトジェネティクス(光でニューロンの活動を操作する技術)が盛んに行われていたり、睡眠分野では睡眠の必要性の一端を解明した論文(睡眠が脳の老廃物除去を促進する:2013年 Science)が公開されたりと、なかなか派手でエキサイティングな印象を受けました。なんか凄そう、なんか面白そう、単純ですが自分を駆動させるのに十分なモチベーションになりました。

そしてこの頃、完全に若気の至りで「この世でわかってることって意外と少ないんじゃないか?」と何となく思ってしまいました。先人たちの偉大な研究によって解明されてきた知見も沢山あるけど、未知なことも非常に多く残されている。例えば、私が特に興味をもった睡眠研究では、そもそも睡眠はなぜ必要なのか、なぜ意識がなくなるのか、なくなる必要があるのか、こんな私でも思いつくような“基本的”な問いに人類はまだ正確に答えられていないようでした。少し残念に思いましたが、逆に、自分も何か一矢報いる余地があるのではと奮い立った記憶があります。あまりにも無知だった自分にとって、良い意味で予想外でした。

しかし、これら外的に得た情報やそこから派生した思慮だけでは、研究の道を選ぶ理由としてはまだ弱かったです。結局、最もクリティカルだったのは実体験に基づく「経験」でした。修士2年の年末頃に(発見当時は謎現象でしたが)重要な生命現象を幸運にも発見できた時、「楽しい・面白い」というシンプルかつ素晴らしい気分で満たされました。強烈な幸福感でした。自分なりに頭で考え、この手で見出すことができた現象・結果に震えました。(まだ論文公開なんて遥か彼方でしたが)真の研究の面白さに触れた気がして微かに高揚しました。これが決定打となり研究者という道を選びました。すなわち最大の経緯は「実際にやってみて楽しかった・嬉しかった・心が動かされた経験」でした。頭で考えるだけでは決して辿り着けなかった境地です。自ら行動した経験に基づいて選択し、自分で自分の背中を押した人間のみる世界は一味違います。

研究者が研究を続けていく上で大切だと思うことはなんですか

研究対象を“面白い”と純粋に思えること、そしてその熱意を“行動として体現できる”こと。身も蓋もないですが、やはりまずはこれが土台になるのではないかと思います。研究者としての作法・心得や技能も言うまでもなく大事です。そうはいってもやはり根源的な土台がしっかりしている研究者は強いのではないでしょうか。研究における幸運はそういう“熱い”人にしか訪れてくれない気がしています。

しかし、ただ面白いという気持ちだけでは研究者として生きていくことはできないので、職業としての研究者を続ける意欲も必要です。研究対象それ自体への興味だけではなくて、論文の発表、新しい知見や資源の創出、アウトプットしていくこと自体に対しても価値を見出せ、モチベーションを保てる人が研究者として強いと思います。

また、結果がわからないことに価値を見出せる特性も極めて重要だと思います。私は「結果は誰にもわからない」という言葉が大好きです。大学受験までの価値観で生きていていた頃は「結果がわからない・答えがない」ことが大の苦手だったのですが、何をまかり間違ったか、今ではこの「答えがないどころか問いすら自分で見出さないといけない」営みを非常に心地よく感じ、挙句の果てに生き甲斐にまでになってしまいました。

アカデミア研究者を目指す博士学生に、メッセージをお願いします

研究はやってみないとわかりません。これは実験や検証の結果だけでなく、研究における自身の興味、得意不得意、向き不向きも然りです。私自身、再生医学の研究を最初は志したのに、今は全く違うことをしています。現在はホメオスタシス(生体恒常性)に最大の興味をもち、哺乳類の体温や睡眠の恒常性の維持メカニズム解明に取り組んでいます。正直、興味はこれまで色々変わってきました。向いていないと判断し断念したこともあります。しかしこれは何か外圧によるものでは全くなくて、自分が必死に研究・実験して得た“経験”に基づくものです。長いようで短い人生、あまり悩んでいる時間はありません。できるだけ早く積極的に動き、色々な経験をし、自分の真の興味や人生におけるモチベーションを見つけてください。

また、スポーツでも何でもいいので打ち込める趣味をもつと良いと思います。私は研究に結構な時間を使っていますが、飲み会やスポーツも大好きなので、リフレッシュするために趣味の時間は必ずとるようにしています。適度なリフレッシュは事を好転させると感じています。いくら全力で実験をしても結果が出ないと、悶々と煮詰まってしまって、視野が狭くなってしまいがちです。息抜きしつつ、うまくバランス取りながら続けていくことが大切です。 またこれはメンタルや身体の単なる休息だけに止まりません。例えば私は、好きな運動をして無意識に体を動かしていると何か良い発想が浮かんだりします。研究にとっては全然関係なくて「どうでもいいこと」を仲間と話したりすることも、新たな発想を生み出すためのエネルギー補充になると私は感じています。

最後に睡眠の重要性を。博士課程の頃、鬼神のごとく実験させていただきましたが、実は毎日ちゃんと7時間くらいは睡眠 sleepしていました(睡眠研究が身近にある環境が幸いしました)。今のところ睡眠に代わる心身リカバリー方法は発見されていませんので、適切な睡眠は本当に本当に大事です。生命維持に不可欠なだけでなく、良い研究(最高のパフォーマンスを発揮)するには絶対必要な行動です。直前に追い込み過ぎないように、余裕がある時から中長期的にやることをやって、ちゃんと睡眠時間を確保してください。でも無理がきく(許される?)のは博士課程というほんのわずかな確変期間限定という現実もあるので、心身を病まない範囲で目一杯楽しむことも個人的にはオススメします。

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